
Web Factory MK東京オフィスのBizDev 菅です。
前回の記事で、オフショア開発は日本においては70%以上の企業が利用しており、既に主だった開発手法になっている現状についてお伝えしました。今回は、実際にあたながオフショア開発導入、もしくは既存のオフショア開発の代案を検討する際に、どの地域・どの国を選ぶのが良いのか、それぞれの特徴を検討しながら考えてみたいと思います。
オフショア開発と地域ごとの区別
まず、地域についてですが、あまりに大きな地域でまとめるのは、正直意味がありません。統計を見てみると「ヨーロッパの平均単価は〇〇円」、「東南アジアの平均単価は〇〇円」というような情報がありますが、ヨーロッパや東南アジアでも国や地域によって大きな差があります。また、「ヨーロッパは技術力が高い」、「東南アジアは組織風土が日本に似ている」といったような大雑把な話も、あまり信憑性があるとは言えません。
今回の記事では、東南アジアはベトナムや中国を代表とするオフショア開発のリソース提供諸国、ヨーロッパは旧東欧を含む、比較的賃金差分の多い諸国と設定しています。
日本語での開発は不利な場合も
東南アジア、特にベトナムに開発拠点を置くオフショア企業は、日本語能力(N-1)を持つブリッジSEや技術者による日本語対応で注目を集め、実績も積み上げています。ここで注意したいのは、「日本語対応可能なブリッジSE」=「全て日本語で開発可能」とはならない事です。
そもそも「日本語での開発」とは?
多くの場合、日本語はあくまでもコミュニケーション言語の”1つ”であり、仕様書やブリッジSEを挟まないコミュニケーションは英語になります。また、日本語のコミュニケーションに頼り切ってしまうと、ブリッジSEに通訳としての負荷がかかり、本来のPM・PM補助業務に支障がでて最悪の場合は開発の途中(それも多くは負荷のかかる終盤!)でブリッジSEの交代もありえます。こうなると、学習カーブが必要な準備時間が必要で、開発の時間軸に大きな影響があります。
また、「N-1レベル」の日本語とはいえ、そのレベルは様々で、私たち日本側の人員と同じレベルではない場合もあります。また、同時に優れたエンジニアである必要があれば、実際はその両方を満たす人材は少なく、アサインが可能な場合でも人件費は日本国内と変わらないか、それ以上になる場合が多く見受けられます。
最後に、日本語への通訳・翻訳のプロセスを導入すると隠れがちではあるものの、無視できないのが”コスト”です。開発に必要なドキュメントを翻訳する際、翻訳者にも高いIT知識が必要なため、通常の翻訳に比べてコストが高くなり、翻訳の時間も長くなります。日々の開発に必要なコミュニケーションや会議に通訳を入れると、当たり前ですが時間は倍かかります。
この通訳・翻訳のコスト(予算と追加開発期間)はよく見落とされてしまい、結果として、プロジェクトの成否に大きな影響を及ぼします。
結論ですが、日本語対応できる国で選択をしようとすると選択肢が極端に狭まり、コスト削減効果も望めず、むしろコストが増大する可能性もあります。
英語での開発が有利な理由
実際のオフショア開発現場で圧倒的に多いのが、英語でのコミュニケーションによる開発体制です。こう聞くと、「うちは英語が苦手」と思う方が多いと思いますし、「英語が得意」と言い切れる会社は少ないのが現実でしょう。
しかし、近年はGoogle翻訳など翻訳ツールの精度が実用レベルにまで向上し、日本側も英語でのコミュニケーション、オフショア側も英語でコミュニケーションがスムーズになりました。さらに、SlackやJiraなどのツールを使用することで、意思疎通はほぼ問題なく行えるケースがほとんどです。コードのレビューにおいても、技術仕様書や技術ブログも多くのエンジニアが英語のドキュメントをGoogle翻訳などで閲覧するのも当たり前になってきており、英語のハードルは想定より低いのが実情です。心理的なハードルはあるものの、英語のコミュニケーションで進める開発はオフショア開発の中心であり、コストや開発期間で格段に効率が良く、有利になります。
広がるデベロッパーの選択肢と市場
英語で進めるもう一つのメリットは、開発パートナーの選択肢が飛躍的に広がる事です。先進欧米諸国の大手IT企業が開発拠点を設立していることから、ヨーロッパは2000年代初頭から多くの開発リソースを提供してきました。これは、平均で70%の人口が英語堪能であり、ITエンジニアの多くは大卒以上で英語を話す率は90%以上とコミュニケーションがよりスムーズなこと、時間差があってもコミュニケーションツールや開発スタイルで十分吸収できること、また進捗している国は多くの案件を受けるため、先進欧米諸国のワークスタイルやニーズを学び、実際に一緒に働く際の働きやすさ、満足度はマッキンゼーなどの調査によってもオフショア開発を行うヨーロッパの多くの国々は世界の上位2%に入ります。
技術力の高いヨーロッパ
このような背景もあり、SAPやGoogleなどのオフショア開発拠点として、ヨーロッパもオフショア開発国として急成長し、技術力も高まりました。開発内容もテストやQAなどではなく、コア部分の設計から開発を行う場合が多く、また先進欧米のITジャイアント企業からの要求レベルは高く、常に新しい技術に対して投資をする環境にありますので、開発言語やフレームワークなどの選択など、常に新しく効率よく進めているのが現状です。また、近年上位の理系大学では、AI人材育成への投資が盛んで、多くの日本企業もAI開発拠点を創設しています。AI・機械学習プロジェクトのコア部分である学習ライブラリの設計と開発は、特に重要視されています。
開発内容とプロジェクトのスケールにより、メリット・デメリットの双方があり、開発要件や開発の進める手法による部分ももちろんありますが、一概にエンジニアの単価やブリッジSEの日本語能力だけでオフショア提携先を決めることは、避けた方が賢明です。 優れたエンジニアを多く抱える、ヨーロッパへのオフショア開発の検討をされてみてはいかがでしょうか。Web Factory MKのサービス概要もご覧ください。
著者について
菅伸吾 スガ シンゴ
米国NDSU大学卒業後日本マイクロソフトにてプロダクトマネージャとして組み込み機器むけWindows製品を担当。Windows製品本部にて製品ローンチを経験後、インテル株式会社にて大手PCメーカーダイレクト営業、タブレットやモバイル機器の新規事業開発従事。2012年にApple Incに入社、iOSプロダクトマネージャとしてiPhoneのマーケティングをリード。AIスタートアップを経て2020年よりWeb Factory MKの営業統括及び開発をサポート。