
Web Factory MK 東京オフィスの菅です。
コロナ禍によるリモート勤務が当たり前になり、ソフトウェア開発も以前にも増して国内・国外のリモート拠点間での開発が進んでいます。 この記事では2022年最新のオフショア開発の状況と活用方法についてまとめます。
”オフショア開発(オフショアかいはつ、英語: offshore development)とは、情報技術(IT)開発の一部業務を海外の子会社や他の関連海外サプライヤーなどを通じて行われる委託開発で例えば、ソフトウェア開発、ウェブシステム開発やスマートフォンのアプリケーション開発など”とWikipediaでは定義されています。
2022年最新のオフショア開発の動向は?
2000年代の初めにおいて、オフショア開発の目的は主にコスト削減でした。日本とオフショア開発地の賃金差を利用して、開発コストを削減する手法です。ただし、開発手法の進化、ネットワークやコミュニケーションの手段がオンライン会議やSlackなどのチャットに移行したこと、またGitHubなどでのソースコード管理が容易になったことにより、大手企業ではすでにアジア、ヨーロッパ、北米の開発拠点間で同時に開発する手法が当たり前になっています。つまり、コスト削減がオフショア開発の主目的であった時代は、すでに終わりを迎えていると言えます。
また、世界の拠点間で分散して同時に開発が行える環境により、社外にアウトソースする仕向地も、同じ国、同じ時間帯に限定される事も少なくなってきています。パンデミックにも関わらず世界のソフトウェア開発市場は伸び続けていること、日本のみならず世界での開発リソース不足は深刻になっていることから、オフショア開発市場でも、優秀なリソースは世界で獲得合戦となっています。
このような状況により、世界の主なオフショア開発地でのエンジニア単価は上昇**しており、オフショア開発の目的はコスト削減よりもリソース確保に変化しています。開発するソフトウェアやサービスにもよりますが、オフショア開発はソフトウェア開発において、優秀なリソースを確保するために不可欠な手法となっています。
**出典: オフショア開発.com 「オフショア開発白書2021」
なお高まる日本企業のオフショア開発の需要
日本国内の4,000社を対象に、総務省が行った調査* によると、2008年度時点で既にほぼ半数の企業がオフショア開発を行っているか、もしくは導入予定でした。CAGR(年平均成長率)についてはいくつかの数字がありますが、低く見て3.8%で、IT市場の伸びとともに成長と試算しても2021年で既に日本の70%の企業がオフショア開発を行っており、今後も同じもしくはより高い成長率で推移していくと予測されます。
*出典: 総務省「オフショアリングの進展とその影響に 関する調査研究」
日本企業の70%がオフショア開発を採用しているこのデータから、幾つかの事実が見えてきますが、オフショア開発は一部の企業が採用する開発手法ではなく、もはや”利用して当然”な、メインストリームな開発手法と言えるでしょう。また、日本の主なオフショア開発拠点のアジア、ヨーロッパに加えて近年では中東・アフリカでもオフショア開発が始まっています。
こちらについては以前にまとめて記事を書いています。
オフショア開発パートナーを選ぶ際の注意点
もちろん、言語の壁などが他国に比べて顕在化しやすい日本においては、オフショア開発に不安や抵抗感を持たれる方も多いと思います。オフショア、ニアショア、また国内の全てのケースで重要となるのは、開発企業パートナー選びです。必要な技術力、経験、問題提起・解決、開発体制、品質や開発期間、そしてコストなど多くの要素が重要となります。中でも重要なのは技術力、実績、開発体制です。
オフショア開発企業の選択は、簡単ではありません。日本市場では多くの企業の評判や顧客との事例を参考に選ぶことも可能ですが、海外となると情報は限られ、また情報の信頼度も判断が必要となります。
国内でベンダーを選定する場合と同様、エンジニアのインタビュー、小さなプロジェクトを担当させて技術力やコミュニケーション、開発カルチャー(これ重要です)を見極めて本採用、という手法が近年よく採用されています。オフショアにも、まず第一に品質が求められる時代です。ベンダー選定に秘訣は無く、手間はかかりますが必ず開発者のインタビューや過去のプロジェクトのレビューなどを行い、実績を文字通りではなく何を開発したか、など確認しましょう。
開発体制についてはいろんな手法があり、一律にこれが良いというのはありませんが、担当チーム結成する際にはシニアで経験値の高いエンジニアを配置するが、短期間でメンバーが入れ替わると行った事が多くあります。これは開発チームの生産性を大きく損ないますので離職率やメンバー交代の有無や頻度についてもきちんと事前に確認し、交渉が必要です。
オフショア開発と地域ごとの区別
オフショア開発の地域選定についてですが、あまりに大きな地域でまとめるのは、正直意味がありません。統計を見てみると「ヨーロッパの平均単価は〇〇円」、「東南アジアの平均単価は〇〇円」というような情報がありますが、ヨーロッパや東南アジアでも国や地域によって大きな差があります。また、「ヨーロッパは技術力が高い」、「東南アジアは組織風土が日本に似ている」といったような大雑把な話も、あまり信憑性があるとは言えません。またパンデミックにより技術力の高いエンジニアはグローバル統一で単価が高騰しており、レベルに応じた単価を調べる必要があります。
東南アジアはベトナムや中国を代表とするオフショア開発のリソース提供諸国、ヨーロッパは旧東欧を含む、比較的賃金差分の多い諸国と設定しています。
日本語での開発は不利な場合も
東南アジア、特にベトナムに開発拠点を置くオフショア企業は、日本語能力(N-1)を持つブリッジSEや技術者による日本語対応で注目を集め、実績も積み上げています。ここで注意したいのは、「日本語対応可能なブリッジSE」=「全て日本語で開発可能」とはならない事です。
そもそも「日本語での開発」とは?
多くの場合、日本語はあくまでもコミュニケーション言語の”1つ”であり、仕様書やブリッジSEを挟まないコミュニケーションは英語になります。また、日本語のコミュニケーションに頼り切ってしまうと、ブリッジSEに通訳としての負荷がかかり、本来のPM・PM補助業務に支障がでて最悪の場合は開発の途中(それも多くは負荷のかかる終盤!)でブリッジSEの交代もありえます。こうなると、学習カーブが必要な準備時間が必要で、開発の時間軸に大きな影響があります。
また、「N-1レベル」の日本語とはいえ、そのレベルは様々で、私たち日本側の人員と同じレベルではない場合もあります。また、同時に優れたエンジニアである必要があれば、実際はその両方を満たす人材は少なく、アサインが可能な場合でも人件費は日本国内と変わらないか、それ以上になる場合が多く見受けられます。
最後に、日本語への通訳・翻訳のプロセスを導入すると隠れがちではあるものの、無視できないのが”コスト”です。開発に必要なドキュメントを翻訳する際、翻訳者にも高いIT知識が必要なため、通常の翻訳に比べてコストが高くなり、翻訳の時間も長くなります。日々の開発に必要なコミュニケーションや会議に通訳を入れると、当たり前ですが時間は倍かかります。
この通訳・翻訳のコスト(予算と追加開発期間)はよく見落とされてしまい、結果として、プロジェクトの成否に大きな影響を及ぼします。
結論ですが、日本語対応できる国で選択をしようとすると選択肢が極端に狭まり、コスト削減効果も望めず、むしろコストが増大する可能性もあります。
英語での開発が有利な理由
実際のオフショア開発現場で圧倒的に多いのが、英語でのコミュニケーションによる開発体制です。こう聞くと、「うちは英語が苦手」と思う方が多いと思いますし、「英語が得意」と言い切れる会社は少ないのが現実でしょう。
しかし、近年はGoogle翻訳など翻訳ツールの精度が実用レベルにまで向上し、日本側も英語でのコミュニケーション、オフショア側も英語でコミュニケーションがスムーズになりました。さらに、SlackやJiraなどのツールを使用することで、意思疎通はほぼ問題なく行えるケースがほとんどです。コードのレビューにおいても、技術仕様書や技術ブログも多くのエンジニアが英語のドキュメントをGoogle翻訳などで閲覧するのも当たり前になってきており、英語のハードルは想定より低いのが実情です。心理的なハードルはあるものの、英語のコミュニケーションで進める開発はオフショア開発の中心であり、コストや開発期間で格段に効率が良く、有利になります。
広がるデベロッパーの選択肢と市場
英語で進めるもう一つのメリットは、開発パートナーの選択肢が飛躍的に広がる事です。先進欧米諸国の大手IT企業が開発拠点を設立していることから、ヨーロッパは2000年代初頭から多くの開発リソースを提供してきました。これは、平均で70%の人口が英語堪能であり、ITエンジニアの多くは大卒以上で英語を話す率は90%以上とコミュニケーションがよりスムーズなこと、時間差があってもコミュニケーションツールや開発スタイルで十分吸収できること、また進捗している国は多くの案件を受けるため、先進欧米諸国のワークスタイルやニーズを学び、実際に一緒に働く際の働きやすさ、満足度はマッキンゼーなどの調査によってもオフショア開発を行うヨーロッパの多くの国々は世界の上位2%に入ります。
技術力の高いヨーロッパ
このような背景もあり、SAPやGoogleなどのオフショア開発拠点として、ヨーロッパもオフショア開発国として急成長し、技術力も高まりました。開発内容もテストやQAなどではなく、コア部分の設計から開発を行う場合が多く、また先進欧米のITジャイアント企業からの要求レベルは高く、常に新しい技術に対して投資をする環境にありますので、開発言語やフレームワークなどの選択など、常に新しく効率よく進めているのが現状です。また、近年上位の理系大学では、AI人材育成への投資が盛んで、多くの日本企業もAI開発拠点を創設しています。AI・機械学習プロジェクトのコア部分である学習ライブラリの設計と開発は、特に重要視されています。
まとめ
開発内容とプロジェクトのスケールにより、メリット・デメリットの双方があり、開発要件や開発の進める手法による部分ももちろんありますが、一概にエンジニアの単価やブリッジSEの日本語能力だけでオフショア提携先を決めることは、避けた方が賢明です。 優れたエンジニアを多く抱える、ヨーロッパへのオフショア開発の検討をされてみてはいかがでしょうか。Web Factory MKのサービス概要もご覧ください。
著者について
菅伸吾 スガ シンゴ
米国NDSU大学卒業後日本マイクロソフトにてプロダクトマネージャとして組み込み機器むけWindows製品を担当。Windows製品本部にて製品ローンチを経験後、インテル株式会社にて大手PCメーカーダイレクト営業、タブレットやモバイル機器の新規事業開発従事。2012年にApple Incに入社、iOSプロダクトマネージャとしてiPhoneのマーケティングをリード。AIスタートアップを経て2020年よりWeb Factory MKの営業統括及び開発をサポート